2017年8月26日土曜日

ケーンの話(ラオスの民話から)

 昔々、ある所に小さな村があり、そこに一人の醜い男の子がいました。男の子は、醜い顔をしていましたが、竹笛を吹くことがとても上手でした。村の人々は、この男の子が、上手に竹笛を吹くことは、知っていましたが、その子の醜い顔を誰もみたことがありませんでした。その子は、人前では、醜い顔を誰にも見られないように、いつも俯いていました。その子は、森の中に住んでいて、夜になると、真っ暗な森の中でいつも美しい曲を吹いて、村人たちを楽しませてくれました。

 ある時、醜い男の子は、別の村に行って、夜になってから、竹笛を吹き始めました。この村には、とても美しい一人の娘がいました。彼女は、美しい竹笛のメロディーを聞いて、まだ見ぬ竹笛を吹いている人に恋をしました。彼女は、竹笛を吹いている人と結婚したくなり、使いをやって、彼に結婚を申し込みました。彼は、この美しい娘をすでに見ていたので、喜んで承諾しましたが、結婚式を新月の夜にする条件を付けました。娘にとっては、そんなことは、たいした問題ではないので、二人の結婚が決まりました。

 暗闇の中での結婚式が終わって、娘が始めて、男の顔をを見たときに、娘は、驚きのあまりに悲鳴を上げました。娘が結婚をしたはずの男ではなく、悪魔が、花婿に代わって、目の前にいると思ったからです。

 男は、この結婚が、なりたたないことを感じて、とても悲しみました。

 仕方なく、彼は、再び森の中に戻ってゆきました。一人になると、思い出すのは、美しい娘の姿でした。彼は、その思いを竹笛に込めて、一生懸命吹きました。それから、毎晩、彼女の住む村の近くに行って、古い井戸の近くに座って、竹笛を吹くようになりました。満月の夜になると、彼の娘への思いが、いつも以上に高まって、それは、それは、美しいメロディーとなりました。彼が、井戸の中を覗き込むと、水面に娘の顔が浮かんで、彼は、ますますせつなくなりました。

 しかし、彼が、娘の顔を見ることは、このようにして、竹笛を吹きながら、井戸の中を覗き込むことだけだとわかっていたので、だんだんとそれに満足するようになりました。その内に、彼がうまく竹笛をふいたときに、娘の顔が、ますます美しくなることを発見して、一つの考えが浮かびました。

 何本かの竹笛をつなぎあわせて、それぞれの笛の音程を変えたら、きっとすばらしいメロディーになるに違いないと思いました。早速、男は、何本かの笛をつなぎあわせて、新しい楽器を作り出しました。











 それからは、男は、毎晩、いつもの古井戸のある所に座って、新しい楽器を吹いて、美しいメロディーを村人に聞かせるようになりました。彼のメロディーが、流れはじめると、まるで、すべての花が、甘く匂うようでした。村の男たちは、それぞれに村の娘たちに恋をして、みんな幸せに暮らしはじめました。

 竹笛を吹く男は、亡くなるその日まで、井戸の中を覗き込んでは、愛しい娘のことを思い、新しいメロディーを吹き続けました。

 彼が亡くなった翌日、村人たちは、古井戸のところで息絶えていた、彼を発見しました。彼は、彼が作り出した、何本かの竹笛を連ねて作った新しい楽器を握り締めていました。

 これが、ラオスのいたるところで、今でも村人たちが、集まって楽しんでいる、竹笛(ケーン)が、出来あがった物語です。


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