今まで生きてきた中の体験や考えたことなどを綴ります。 あくまでも個人の見解です。 北風剛としての東南アジアの民話も少々。 英語やタイ語の翻訳はいい加減なのであしからず。
2018年1月18日木曜日
孤児と洪水 ベトナムの民話から
昔々、地上の人間たちが、あまりにも自信過剰で横暴になっていたので、天の神様が、人間たちを懲らしめることにしました。しかし、一人の仏様が、人間たちにもう一回機会を与えてから懲らしめてもいいのではないかと神様にお願いしました。神様も、情け深く、仏様を地上にやって、助けるべき正しい人間が、少しでもいるのか確かめてくるようにいいました。
地上に降りた仏様は、薄汚れ、年老いた乞食の姿をして、正しい人間を求めて歩き回ることにしました。しかし、どこに行っても、人間たちは、寛大な心や親切や愛を忘れているようでした。
年老いた乞食が、少しだけ食べるものを恵んでくださいといっても、人々は、無視するか、うるさいからどっかに行けという人ばかりでした。子供たちは、親たちから、困っている人や運の悪い人を見たら親切にするように教えられていないので、乞食を見ると面白おかしくからかいました。挙げ句の果てには、乞食を、村から追い払いました。
年老いた乞食は、村の外の森の中に入っていって、小さな川のほとりで、疲れて果てて、座り込んでしまいました。もう何日も食べていないので、疲れと空腹から、病気になってしまったようでした。体は、薄汚れていたし、服もぼろぼろでした。
その川のすぐ近くに男の子と女の子の二人の孤児が住んでいました。二人ともそれぞれ両親がなく、二人は一つの家で、まるで兄弟のように助け合って、仲良く暮らしていました。二人は、毎日朝早くから、森の中を歩き回って、薪を集め、それを町の人に売って、生活していました。
彼等は、もちろん貧乏でしたが、年老いた乞食を見て同情しました。二人は、乞食にわずかばかりの食事をあげて、お湯を沸かして、体を洗うようにいいました。乞食は、ここで二日間すごしましたが、二人が、心優しく、お互いに助け合う姿を見て、この二人こそ救われるべき人間だと考えました。
三日目になって、乞食は、二人に大切な話があると告げました。
「親切にしてくれて本当にありがとう。大切な話だから、2人してよく聞きなさい。まもなく、地上は洪水となり、水はあらゆるものを呑み込んでしまうことになる。もちろん、人間たちや生き物たちも死んでしまうことになる。お前たち二人は、このわたしに親切にしてくれたので、お礼にお守りを授けよう。」
乞食は、自分の歯を一本抜いて、二人に差し出しながら、「この魔法の歯を、種として植えなさい。そして、毎日水をやりなさい。やがて芽が出て、蔓が延び、大きなカボチャがなるはずだ。カボチャは、どんどん大きくなって、二人が中に入れるくらいになる。」
「このカボチャのことと洪水のことは、誰にも話してはいけない。ツルが枯れて、葉が落ちたら、カボチャの上の部分に穴を開けて入り口を作りなさい。そして、大雨が降り始めたら、このカボチャの中に入って暮らしなさい。それで、地上の人間や生き物たちが滅びても、二人は助かることが出来る。」と言いました。
突然、乞食が、姿を変えて、白いあごひげをはやした美しく尊い仏様の姿になりました。最後に、二人に向かって、必ず救われるから、元気で暮らすのだよと言い残して、姿を消してしまいました。
二人は、老人がいったように、もらった歯を森の中の人目につかないところに植えて、毎日水をやりました。しばらくすると、老人がいったように、芽が出て、ツルが延びてきました。カボチャの実がなって、少しずつ大きくなってきました。二人は、もっとお大きくなれと一生懸命世話をしました。カボチャの世話をしている間、二人は老人の言い付けを守って、やがてやってくる洪水の話もカボチャの話しも誰にもしませんでした。
ある朝、最初の葉が落ち、だんだんとツルも枯れてきました。二人は、洪水がくる日が近いことを感じました。ツルが完全に枯れたので、二人は、カボチャの上によじ登って、岩のように固くて、皮が厚かったので大変な作業でしたが、やっとのことで入り口を作りました。そして、中をくり貫いて、二人が暮らす小さな部屋を作りました。
それから幾日もしない日に、突然真っ黒な雲が大空を覆い尽くし、激しい雨が降り始めました。二人の小屋にも雨が降り始めたので、少年は、「ついに雨が来た。急いで、カボチャの中に入ろう。」と、少女に向かっていいました。
二人は、カボチャのところまで走っていって、カボチャによじ登って、中にもぐりこみました。入り口から雨が入り込まないように、蓋をして、隙間には、カボチャのツルから作った繊維を詰め込みました。
外では、激しい雷が鳴って、稲妻が走り、まるで滝から落ちる水のような大雨が、降り始めていました。すさまじい風が、カボチャをゆすりました。いたるところに水が溜まりはじめ、だんだんと池のようになってきました。水位が上がってきて、まず二人が住んでいた小屋が、水の下に沈んでゆきました。そして、堤防より水位が上がったので、もう見渡す限りが、大きな川になってしまいました。村の中の建物も、すべて沈んでしまい、村の人々は、老弱男女を問わず、すべて死んでしまいました。
水に浮かんだカボチャの中の二人だけが、無事でした。二人は、あらかじめカボチャの中に用意しておいた食料を少しずつ食べて、何と三年間、カボチャの中で暮らしました。恐ろしい洪水も、だんだんと水位を下げて、ある日、カボチャが、地面に触れるのを感じた二人は、やっとカボチャから外に出ました。カボチャは、丘の上に辿り着いていましたが、見渡す限り、人っ子一人いませんでした。人間ばかりか、動物も小鳥も木も草もなく、ただ山と荒野があるだけで、二人はどうしたらいいものか分かりませんでした。
二人が、荒野を見つめて途方に暮れていると、カボチャの種をくれた老人が再び現れて、二人に、「二人の乗ってきたカボチャの種を、丘の上にまきなさい。そして、ここで生活をはじめなさい。必ず幸せになれ。」といって、再び姿を消しました。
二人は、カボチャの中に残っていたカボチャの種を集めて、丘の上に植えはじめました。すると種をまいたところから、人間が生まれ、生き物が現れて、村が出来ました。そして、だんだんと村は増えて、平野にも村が広がってゆきました。ですから、今日でも、ヴェトナムでは、平野よりも丘に住む人が多いのです。
二人の孤児は、ずっと仲良くいっしょに暮らし、大人になったときに結婚して、末永く幸せに暮らしましたとさ。
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