2018年3月5日月曜日

王様の猫 ベトナムの民話から


昔々のお話よ。

 王様は、一匹の美しい猫をもらいました。王様は、この猫を毎日毎

日とても可愛がって育てました。あまりにも猫ばかり可愛がって、国

の政治には、無関心でした。

 大臣や役人からの報告や忠告を聞く時間もないほど猫とばかり遊ん

でいました。毎日、王様がしていることといったら、猫と遊んでいる

か、猫の輝く美しい毛を梳かすだけでした。猫にやる餌といったら、

国中で一番上等な肉ばかりでした。こうした暮らしが、しばらく続き

ました。

 この国には、頭のいいことで有名なクインという男がいました。彼

は、とても頭が良く、機転に富んでいました。クインは、この王様の

猫は、この国のためには良くないと考えました。そこで、ある夜、彼

は、王宮からこの猫を盗み出して、彼の家で飼うことにしました。

 クインは、この猫を飼い慣らすことにしました。餌の時間には、二

枚の皿を用意して、一枚には、肉をのせ、もう一枚の方には、彼の食

べ残した野菜や、ご飯や、魚などの残飯をのせ、猫の前に出しました



 猫が、肉の皿の方に寄ってくると、クインは、肉の皿を取り上げて

、もう一枚の皿の方を差し出しました。はじめは、贅沢になれた猫は

、残飯を食べませんでしたが、お腹が空いてくると、仕方なく残飯を

食べるようになりました。しばらくすると、猫は、残飯の食事になれ

て、もう肉の方には、見向きもしないようになりました。

 猫がいなくなった王様の方は、たいそう悲しがって、毎日、家来た

ちに国中のいたるところで猫を探させました。探し出したものには、

賞金を与えるおふれも出しました。

 そのうちに、クインが、王様の猫を飼っているらしいと耳にしまし

た。王様は、非常に腹を立てて、クインを呼び出し、この猫泥棒と非

難しました。

 クインは、王様に、静かに、「国王陛下、確かにわたしが飼ってい

る猫は、王様の猫に良く似ているかもしれませんが、まったく別の猫

なのです。わたしが、ここに連れてきますから、ご自分の目で確かめ

てください。」といいました。

 クインが連れてきた猫を見た王様は、「やっぱりわしの猫に間違い

はない。今すぐ、この猫をわしに返しなさい。」といいました。

 ところが、クインは、「陛下、王宮にいた猫は、毎日何を食べてい

ましたか?」と王様にたずねました。王様は、「もちろん、国で一番

上等な肉だ。」と不機嫌な声で答えました。

 「だったら、この猫は、やっぱり国王陛下の猫ではありません。こ

の猫の大好物は、わたしが食べ残した、野菜やご飯や魚の残飯ですか

ら・・・・。」

 「今ここで試してみましょう。もしも、この猫が、国王陛下の肉を

食べたら、この猫は、国王陛下の猫になりますが、もしも残飯を食べ

たとしたら、間違いなくわたしの猫ということになります。」とクイ

ンはいいました。

 王様は、この話に同意して、召し使いに、二つの皿を持ってこさせ

ました。一つの皿には、たくさんの美味しそうな肉がのっていて、も

う一つの皿には、ご飯と野菜だけでした。

 猫は、肉の方には、見向きもしないで、ご飯と野菜だけの皿を全部

食べてしまいました。結局、クインの猫に間違いはないと王様も認め

て、クインは、猫を家に連れ帰りました。

 王様は、しばらくは、がっかりして、猫のことばかり考えていまし

たが、時が経つと猫のことは、すっかり忘れてしまいました。

 それからは、大臣や役人たちの話に耳を貸すようになり、国の大切

な問題を解決していくようになりました。王国は、以前のように繁栄

して、人々は、幸せに暮らしましたとさ。


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