2019年3月2日土曜日

タイの選挙 その3

日本のメディアの報道の多くは、以下のようなとらえ方をしているものが多いようです。

例えば、こちら


タクシン政権以後のタイの政治の混迷は、東北部と北部の農村の住民を中心としたタクシン派と、地方へのばら撒き政策を非難するインテリ層・富裕層・中間所得層を主とする反タクシン派の利権争いが主な要因になっている。

クーデターなどによって、タクシン氏や、その後を継いだ妹のインラック前首相が、相次いで国を追い出される形となったうえ、現在もタクシン派への締め付けが続いています。


日本人の中には、弱者が正しいというとらえ方をした方が、受けがいいということもありそうですが、あまりにも単純すぎるように思います。

「タクシン氏や、その後を継いだ妹のインラック前首相が、相次いで国を追い出される形」この指摘は間違いですし、タクシン大好きなメディアの嘘ですね。

2人が国外に逃亡したのは、行った不正で起訴されて有罪になり、服役を拒んでの逃亡です。

タクシン派を支持しているインテリ層・富裕層・中間所得層もいますし、反タクシン派を支持する農村の住民もいます。

選挙で勝って政権をとれば、それは民主的な政権ではあるけど、選挙で勝った政権だから、すべて正しいわけでもありません。

かって、自民党を非難する枝野幸男氏は、「ヒトラーは選挙に勝って権力を握り、独裁へ走った」と比喩したように、選挙に勝つと「民意が証明した」とか言うのに、負けると「ヒトラーも選挙で選ばれた」とか言い始めます。

日本のメディアに足りないのは、なぜ、タクシン政権が、反タクシン派を生み出したのかという点ではないかと思います。

タクシンが政権をとった2001年以降、最初は、大きな期待を持って迎えられたんですが、徐々に、??といった政策もでてきたし、不正疑惑もでてきて、タクシンを批判する人たちが増えたのです。

例えば、麻薬戦争。タイにはびこる麻薬を撲滅するとの名目で、裁判にかけることもなく、疑わしきはその場で銃殺といったやり方が、批判を浴びました。

嫌疑をかけられて殺された人の中には、麻薬と無関係だったり、タクシン派と対立している人たちだったり、中には子供までいたことで、大きな問題になりました。

南タイのタクバイ事件もありました。

そして、不正に関しても、いろいろと出てきました。


2006年に発生したタイ軍事クーデターの原因の一つとなった、タクシン首相(当時)の家族が所有する巨大通信社シン・コーポレーションの株式を、テマセクホール・ディングスに売却した。

この時、タクシン首相の息子が売却により得た収入に対して、課税されなかったことなどから、タイ国民の間にタクシンに対する不信感が広まった。

また、首相個人が所有する株式とは言え、国内企業を外国企業、しかも一部のタイ国民が対立感情を抱く中華系のシンガポールの企業に売却したことが、タイ国民の不信を招いた。


詳しいことは、いろいろな方が書いています。例えば、こちらとか、こちらなど。

まあ、軍政がいいわけもないですが、軍が出てくるには、それなりの理由もあり、タクシンが、すべて間違いでも無ければ、すべて正しいわけでもないわけです。

タクシンの妹のインラック・シナワトラ政権が、2011年に生産された米を農民から政府が市場価格の約2倍で買い取る政策を行ったわけですが、ベトナムなどの他の東南アジア諸国の米との価格競争に負けて米が売れなくなり、政府の資金繰りの悪化だけでなく貧困層がますます貧困に陥ったことも混迷に拍車をかけ、結果、インラックや当時の大臣たちが、起訴されたのも、選挙で勝つためのばらまき政策といわれて批判されました。

このときの不正で起訴され、判決が出る日に、インラックは、国外に逃亡しました。

結局2001年から、タクシン派政権 ⇒ クーデター ⇒ 国会停止・憲法廃止 ⇒ 立法議会 ⇒ 暫定憲法 ⇒ 新憲法発布 ⇒ 総選挙 ⇒ 民政移管 ⇒ クーデターを繰り返してきています。

こちらの方のとらえ方は、さすがに専門家という感じはします。

さて、今行われている選挙に関してですが、タイの議会は、上院250名と下院500名で構成されています。

上院(วุฒิสภา)250名は、指名制で選ばれます。

下院(สภาผู้แทนราษฎร)は、選挙で選出される小選挙区350名と比例代表の150名の計500名です。

タクシン派の戦略は、「タイ貢献党」が中心になり、東北部と北部の小選挙区で、議席を増やす。

そして、「タイ国家維持党」がタイの王女を首相候補に擁立して、比例代表で、大勝ちをする戦略でしたが、これはラマ10世のツルの一言で失敗。

今月7日には、憲法裁判所が、解党命令を出すかどうかに注目が集まっています。

「新未来党」は、若い党首と若い候補者を立て、若い世代にアピールして、都市部の支持者を増やす戦略だったと思われます。

こちらも、現在、経歴詐称の疑いで、もしかしたら解党命令が下されるかもと話題になっています。

タクシン派も、軍事政権の支持政党だと言われる「国民国家の力党」にも不正パーティー献金偽悪で解党すべきだと訴えています。

結局、いろいろな利権にからんだ政治闘争で、みんな必死なわけです。