2019年5月19日日曜日

写真の持つ力

タイでは、毎年5月になると過去に起きた不幸な事件に対する追悼の催しが行われます。

タイで有名な学生や市民に対する弾圧事件としては、俗に10月14日といわれる1973年10月14日に起きた「血の日曜日事件」、1976年10月6日に起きた「血の水曜日事件」、1992年5月に起きた「暗黒の5月事件」、そして、2010年5月19日の政府軍による赤シャツ集会への武力鎮圧です。

最初の3つは、純粋な意味での反政府運動ですが、赤シャツの暴動と軍の鎮圧は、反政府というよりも、タクシン派と反タクシン派の対立で、その時の政府による弾圧という感じですね。

タクシン派と反タクシン派との抗争は、ニワトリが先か卵が先かみたいなところもあって、タクシン派が政権をとると黄色シャツが登場し抗議します。

そして、反タクシン派や軍が政権をとれば、赤シャツが出てきて抗議し暴れます。

こちらにYahooのコラムがありますが、写真の持つ力を感じます。

戦場カメラマンという言葉がありますが、戦場で命がけで写真を撮って世界に流し、それを見るものたちに感動や怒りを与えるわけです。

多くの人が知っているのはロバート・キャパでしょうし、沢田教一さんや一ノ瀬泰造さんもベトナム戦争の時の写真で有名でした。

民衆の側からの写真の方が、見る人に感動を与えるのが普通で、政府や兵士が、民衆に襲われる写真を撮っても、そんなに話題にはならないように思います。

逃げる農民とか、殺された市民とかが、話題になるわけで、暴徒に袋だたきにされる機動隊員とか、過激派に乗っ取られた装甲車も、そんなに支持されないのではないかと思います。

写真家も、写真が売れないと収入につながらないわけで、しっかり取材費をもらっている人以外、自腹で旅費を出して、命を失うリスクを背負って写真を撮るのなら、売れる写真を狙うでしょうね。

コラムの最初の写真ですが、ラマ4世とシーロムとの交差点で、右上にルンピニ公園です。

この交差点から、3~4キロ先の伊勢丹のあるところまで、道路を赤シャツが占拠していました。

それで、政府が軍を使って排除しようとしているところだと思います。

これで何がわかるかといえば、赤シャツの占拠している公園の所には、古いタイヤが積み上げられてバリケードが作られています。

軍の装甲車は、そちら方面に正面を向け、兵士たちは、その後に隠れています。

ですから、赤シャツのバリケードの方から、何らかの攻撃が考えられるとか、すでに攻撃があったと想像できますね。

要するに、警察ではなくて、軍が出る事態というのは、それなりに、相手側からも攻撃されているという状況が考えられるわけで、その結果、赤シャツ側に死傷者が出たからといって、一方的な軍の暴挙とも言えないと思います。

11枚目の写真では、完全に赤シャツの市民が拳銃を撃っています。日本と違って、タイでは、拳銃の所有は許可制ですし、闇では、拳銃や自動小銃も手に入りますから、市民の集会といっても、みんなが丸腰とは限らないわけです。

まして、タクシン派には、軍人も警察官もいます。カーキ色の制服を着ていても、中身は赤シャツということから、スイカ(テンモー)と呼ばれていました。

12枚目の写真は僧侶が地面に伏しているわけですが、タクシン派には、有名な巨大カルト宗教があって、僧侶たちも集会に参加します。僧侶を前面に出して軍と対峙させるとか、それに対し、政府は、女人禁制の僧侶の前に女性兵士を並べるとか、いろいろとあります。

血を流す市民とか、死んでいると思われる市民とかの写真は、それだけで、そこまで何があったとしても、もう、軍や政府が悪党になります。

写真家やジャーナリストの死傷についても、危険なところにいればリスクがあって当然とかいいにくいわけで、やっぱり、軍や政府が無条件で悪いとなってしまいます。

後藤勝さんのコラムは、今まであったタクシンバンザイ派のジャーナリストよりは、はるかにフェアーな見方だと思います。新未来党には、まだ幻想を抱いているのではないかと思うけど。

何事も、両方の側から見て、両方の言い分を聞くべきでしょうね。