昔々、ある村に二人の男がいました。二人は、小作人として、いつも忙しく働いていましたが、収穫のほとんどを地主に持っていかれるので、貧しく暮らしていました。二人は、仲良しでしたが、いくら働いても少しも楽にならないことを嘆きあっていました。
ある日、男の一人が、突然仕事を放り出して、「もうこんな仕事は、まっぴらだ。俺はこの村から逃げ出すことにした。もしも金持ちになったら、おまえも楽にしてやるからな。」と友人にいって、村を後にしました。
男が、森にさしかかったときに、男は、近くにあるすべての木の匂いをかぎながら先に進みました。
しばらくして、とても変わった匂いのする木に気が付きました。いったい何の木だろうかと、匂いをかぎました。匂いをかいでいるうちに、鼻のあたりがむずむずしてきましたので、どうしたのだろうと鼻に手をやって、男はびっくりしました。
なんと鼻が、どんどん長くなってきているではありませんか。ついに1mほどに長さになってしまいましたが、男は慌てず、その木の葉っぱや樹皮や枝や根の一部を袋に入れて、先を進みました。
男の長い鼻は、まわりの木に引っかかって、森の中を歩くのは大変でした。しかし、彼は、飽きもせずまわりの木の匂いをかぎながら、歩いてゆきました。
そのうちに、今度もまた変わった匂いの木を見つけました。近くに行って、匂いをかいでいると、彼の長い鼻が、突然、縮み始めて、もとの普通の鼻になりました。今度も、男は、木の葉っぱや樹皮や枝や根の一部を袋に入れて、先を進みました。
森から出たところに、小さな町がありました。男は、その街に住む独りの婦人の家に下宿することになりました。
しばらくして、この婦人が、この国の王女のために、時々、美しい花束を届ける仕事をしていることがわかりました。男は、婦人の手伝いを一生懸命にして、婦人から信頼されるようになりました。
ある日、男は王女に届ける花束に、鼻を長くする木の葉っぱや樹皮や枝や根のかけらを粉にしたものを、密かにふりかけておきました。
婦人は、いつものように花束を持って、王宮に行きました。
王女は、寝室に届けられた美しい花束を、いつものように手にして、匂いをかぎましたところ、みるみる鼻が長くなってきたのに驚いて、泣き叫びました。
知らせを聞いて、王様がかけつけました。しかし、王様も王女の長くなった鼻を見てびっくりしてしまいました。王様は、とにかく国中のすべての医者を呼んで、治療させましたが、誰も、鼻を元通りにすることは出来ませんでした。
王様は困り果てて、王女の鼻を元通りにした女性には、賞金を出すし、男性であれば王女と結婚させると国中におふれを出しました。我こそはとたくさんのものが王宮に入ってゆきましたが、誰も王女を治すことは出来ませんでした。
花束に不思議な粉を振り掛けた男は、ゆっくりと王宮に入っていって、森の中から持ってきた、鼻を元に戻す木から作った粉を王女も鼻に振り掛けました。
するとどうでしょう、王女の鼻が、元通りの普通の鼻になったので、王女だけでなく、まわりのものも、王様をはじめ、みんな大喜びをしました。
王様は、喜んで、約束通りに、この男と王女を結婚させました。
貧しい男は、今や、この国の王子になり、何不自由なく暮らしはじめました。
この王子は、しばらくすると、使いを出して、残してきた友達を王宮に連れてくるように命令しました。そして、昔の友達との約束を守って、友達が王宮の中で働けるようにして、末永く仲良く暮らしましたとさ。
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