2017年12月16日土曜日

ミャンマーの民話から 白い子象


 昔々、森の中に真っ白な子象を持った母親の象が住んでいました。

 母親は、真っ白な子象を産んだことを非常に誇りを持っていました。母親は、普通の灰色の象でしたので、真っ白な子象を深く愛して、いつも側から離れませんでした。


 子象は、だんだんと成長して大きくなってゆきました。そして、自分のことは自分で出来るようになりました。

 ある日、母親は、この子象の将来のことを考えました。

 子象が、大きくなっても、この森の中で暮らしていくとしたら、他の象と同じように、食べることだけのために、毎日一生懸命働かなければならないと考えました。この特別な、真っ白な子象が、そうした生き方をすることは、母親にとって耐えられないことでした。

 母親は、考えました、森を出て、町に行けば、真っ白な子象は、人々から大切にされ、自分で働かなくても、人々に養ってもらえるはずだと考えました。

 母親は、子象を呼んで話し掛けました。

 「この森の生活は、おまえにとって、ふさわしくない。おまえのような美しく真っ白な象は、森の中で毎日の食べ物のために、一生働き続けるのではなく、人間が住んでいる町に行きなさい。人間にとって、真っ白な象は、高貴な人間の象徴なのだから、必ず、養ってもらえるはずだ。そればかりか、大切にしてもらえるはずだよ。」

 この真っ白な子象は、母親思いの優しい子象だったので、母親のすすめるように、街に行くことにしました。

 母親の象は、子象が、森を出てゆく前に、子象に向かい「人間の中で暮らす時には、人間の言うことを聞いて、忍耐強くするのだよ。」と最後の忠告をしました。

 白い子象が、森を出て、町に入ってゆくと、それを見つけ家々の中から人々が、表に飛び出してきました。「おーい、見ろよ、白い子象が町に来た!」人々は、興奮して叫びあいました。

 人々は、バナナやサトウキビなどの野菜や果物を持ってきて、白い子象に食べさせました。人々が差し出す美味しい果物を食べながら、母親の考えはやはり正しかったと思いました。

 それからというもの、白い象は、町で食べ物をもらい、夜になると近くの森で休む毎日を続けました。人々は、最初の日と同じように、優しくしてくれました。子象は、そうした毎日をとても幸せに思いました。

 しかし、しばらくすると、人々は、食べ物をくれる時に、条件を出しはじめるようになりました。ひと房のバナナを差し出しながら、水を運んでくれたら食べさせてやるよ。子象は、指示にしたがって、水を運びました。すると、次には、サトウキビを差し出して、薪を運んでくれたら、食べさせてやるよといいました。子象は、薪を運びました。

 こうして、交換条件で働きはじめた子象は、だんだんとそうした暮らしが嫌になってきました。しかし、母親からいわれたように、我慢を続けましたが、ある日、ついに我慢が出来なくなって、母親に会いに森に帰ることにしました。

 真っ白な子象は、母親に会うと、町でのことをすべて話して聞かせました。

 「お母さんの言うとおり、人間は、食べ物をくれました。しかし、その見返りとして、水や薪や米を運ばされました。町の人一人一人が、用事を言い付けるのです。とても我慢が出来なかったので帰ってきました。」

 話しを聞き終えた母親は、悲しそうな子象に向かって、「すまないことをしてしまった。おまえが、街に行く前に、もう一つの忠告をすることを忘れてしまった。人間は、自分の人生の尺度で、何事も判断しようとすることを。」と言いました。

 「だから、どんな色の象でも人間のために働くものと考えている。ところが、おまえは、高貴な真っ白な象なのだから、人々のために働く必要などない。高貴な象らしく、何もしないで、絶対に水や薪を運んだりしないようにしなさい。」「さあ、今からすぐ町に行って、人々に、本当の白い象の生き方を教えてあげなさい。」

 子象は、母親の指示にしたがって、町に帰って行きました。それを見た町の人々は、大喜びで、「白い象が町に帰ってきたぞぅ。」と大変な騒ぎでした。

 そして、前と同じように、食べ物を与えて、仕事を頼みました。しかし、今度は、いくら頼んでも、いっこうに働いてくれません。子象は、母親の忠告にしたがって、堂々とじっとしたままでした。一人の男が、無理やり水を運ばせようと命令して象の体に触れたので、白い子象は、長い鼻で、水瓶をつかんで放り投げました。今度は、別の男が、薪を運ばせようとしたので、その男を長い鼻で突き飛ばしました。

 白い子象が、前と違い狂暴な態度をするので、人々は、恐れはじめました。そして、口々に、この子象は、前に来た子象とは、別の子象だと噂しはじめました。「この前に来た白い子象は、本物の子象ではなかったに違いない。本物の白い子象なら、我々の命令にしたがって、働くわけがない。白い象は、昔からいわれているように、高貴な象で、普通の象ではないはずだ。」

 「今度の子象は、どうやら本物の白い高貴な子象のようだから、町にはふさわしくない。今すぐ、王様のところに連れていって、王宮の中で、白い高貴な象として養ってもらおう。」

 そして、人々は、この真っ白い子象を連れて王宮に行きました。そして、王様にささげました。王様は、この真っ白な子象を見て、非常に喜びました。高貴な真っ白な象は、王家のシンボルですから、丁重に扱うように部下に指示をしました。

 真っ白な子象は、こうして王宮の中で、母親が言ったように、何もしないで、美味しいものを与えられ、幸せに暮らしましたとさ。


Copyright(c) 1997 北風剛
無断複製、無断頒布厳禁