2018年1月17日水曜日

誇り高きヤモリ ラオスの民話から


 遠い昔、まだ天国と地上が、そんなに離れていなかったころの話です。人々は、天国と地上の間を自由に行き来することが出来ました。

 ある日、天国の王様が、地上にやってきました。王様は、天国だけではなく、地上の世話もしなければならなかったので、とても忙しく走りまわっていました。地上だけでも、人間だけではなく、たくさんの動物がいて、神様は、そのすべての世話をしていました。

 神様は、高い木の茂った森の近くを歩いていました所、どこからともなく、美しい鳴き声が聞こえてきました。王様は、何の鳴き声かわかりませんでしたが、コオロギが、美しく鳴くことは、知っていました。王様には、鳴き声がどこから聞こえてくるのかわかりませんでしたが、やっとのことで、一本の木の幹の中から聞こえてくることがわかり、中をのぞき込みました。

 仲には、コオロギではなく、トカゲによく似た一匹のヤモリがいました。王様は、ヤモリに向かって、今の美しい鳴き声は、おまえの鳴き声なのかと聞きました。ヤモリは、誇らしげに、もちろん私の鳴き声ですともと答えました。

 王様は、天国には、このような美しい音楽というものがないことを思い出しました。そこで王様は、このヤモリを、天国に連れて帰って、天国で音楽会を開くことにしました。

 王様は、天国のみんなが、すばらしいヤモリの音楽を聴けるようにと、天国に着くとすぐに音楽会の準備を始めました。天国のみんなが集まって、席に付きました。ヤモリはステージの中央に進み出ました。

 みんなは、いつ音楽が始まるのかと固唾を飲んで待ちましたが、ヤモリは、いつになっても何もしませんでした。ヤモリは、咳を繰り返すだけで、鳴き声を聞かせることは出来ませんでした。ヤモリは、はじめから、歌を聞かせることなど出来なかったのです。

 それを知った王様は、とても怒りました。ヤモリは、出来ないことを出来ると王様に嘘をついたのです。

 王さまは、鞭を取り出して、ヤモリを叩きました。何度も叩いたので、ヤモリの肌は、鞭の模様がついて、ざらざらになりました。

 叩かれるたびに、あまりの痛さに、ヤモリは、苦痛のうめき声をあげました。そして、悲鳴を上げたので、ヤモリの目が飛び出して、出目金の目のようになってしまいました。

 最後に、王さまは、ヤモリを地上に向けて、放り投げました。

 これが、どうして、ヤモリがあのような姿になって、奇妙な鳴き声を出すのかのワケなのです。


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