2017年11月27日月曜日

ラオスの民話から 猟師とその奥さん


 遠い昔、ある所に一組の若い夫婦が住んでいました。

 二人には、まだ子どもはありませんでした。ご主人は、猟師で、野鳥を捕まえるのが得意でした。彼の奥さんは、とても良く尽くす、頭のいい奥さんでした。奥さんは、家の中で、毎日毎日、一生懸命に家事をしました。彼女は、鶏を飼って、はたを織ることもしました。彼女は、やさしく、親切だったので、誰からも好かれました。

 ある日、猟師は、すばらしい雄鳥を捕まえて帰ってきました。猟師は、奥さんにこの雄鳥の面倒をよく見るように言いつけました。翌日、猟師は、いつものように狩りに出かけてゆきました。彼は、狩りが大好きで、狩りをすること以外には、何もしませんでした。

 丁度その日、この国の王様が、国の人々がどんな暮らしをしているのかと、お忍びでこの村にやってきました。王さまは、誰からも王さまであることがばれないようにと、僧侶に変装していました。王さまは、その村のパゴダにしばらく住むことにしました。

 パゴダに僧侶が来たことを知った村人たちは、それぞれ、特別の食事を作って、僧侶に食べてもらおうとしました。猟師の奥さんも、この僧侶のためにと、美しい雄鳥を殺して、美味しい料理を作り、僧侶に食べてもらうことにしました。

 夕方になって、猟師が帰ってきたときに、奥さんは、パゴダに来た僧侶の話をしました。そして、僧侶のために、美しい雄鳥を殺したことも話しました。これを聞いた猟師は、かんかんになって怒りました。「おまえはひどい奴だ。俺の大切な一匹しかいない雄鳥を殺したなんて。」と大声で叫びました。

 丁度その時、猟師の家の前を通りかかったこの村の村長が、猟師が奥さんを怒鳴っているのを聞いて、家の中に入ってきました。

 村長を見た奥さんは、猟師に向かって、「お願いですから、もう一匹雄鳥を捕まえてきてください。村には、この雄鳥一匹しかいないので、どうしてももう一匹必要なのです。」といいました。
 猟師は、何を言っているのか良く分からず、「とにかくもう俺とおまえとは、赤の他人だ。」と叫びました。

 当時の村の人たちは、揉め事があるたびに村長に相談したり、村長の裁断を受ける習わしでしたから、二人は村長の家に呼ばれました。

 村長は、まず猟師から話しはじめるようにいいました。しかし猟師は、人前で話すことがなかったので、思うように話をすることが出来ず、「俺の・・・・雄鳥・・・ええと・・・殺して・・・」と、何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。

 次に、奥さんが、話を始めました。「村長様、聞いてください。昨日、うちの主人が帰ってきて、私が、雄鳥を殺して村のパゴダに来た僧侶のための料理を作ったことに怒ったのは、私が、一匹の雄鳥しか出さなかったからなのです。彼は、もっとたくさんの料理を僧侶のために作れと怒ったのです。」といいました。

 僧侶に成りすました王さまは、村人と一緒にこの話を聞いていました。僧侶は、突然立ち上がって、「みなのものよく聞きなさい。わたしは、この国の国王である。この村のみんなが私に対して、とても親切にしてくれたことに感謝する。今の話を聞けば、この猟師は特に見あげた男だ。この猟師と奥さんが、わたしの料理のことで争うのを聞くのはつらいことだ。わたしは、この二人を王宮に連れていって、褒美を与えることにする。」といいました。

 二人は、この村をあとにして、王様と一緒に王宮に行き、猟師は、王宮内で、役人になって、この頭のいい奥さんと末永く幸せに暮らしましたとさ。


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